第8回 ハナムラチカヒロ氏 + 飯島ツトム氏 社会を変えるまなざしの力(8)

今の社会 お金、愛、GIVE

ーでは、話を元に戻しまして。今の社会は「何かおかしい」ということでしたが、現社会をどう見ていらっしゃいますか?

 

ハナムラ

 最近感じるのは我々全員が共有している「お金」つまり貨幣経済というものが一体何なのかということが課題だと思っています。

 

 サブプライム問題で露呈した金融資本市議経済の破綻がユーロの崩壊を始め様々な局面で見え始めている中、僕が指摘するまでもなく、経済そのものを問い直さねばならない時期に来ている事は間違いないでしょう。

 

 資源には限りがあることは分かっているはずなのに、ずっと成長し続けなくてはいけないという脅迫概念に追われ続けている我々の認識自体が変わっていかなくてはならないと思います。

 

 我々はお金を持っているから幸せになるわけではないのです。我々が本当に欲しいのはお金の先にあるものなんです。

 

 お金というのは価値と交換できるものであって、交換される側の価値とは一体何か。それを我々は考えて行く必要があります。「お金を貯める」ということ自体が目的化していて「お金を使って何をするのか」ということを考えない。

 

 「いい車に乗りたい」と言うが、「いい車に乗ることで何が得られるのか」ということを考えない。そしてそれが本当に自分を幸せに導くのかということを疑わないような認識を相対化するべきだと思います。

 

 我々が信じている幸せとは、実は誰かが決めて押し付けている価値観やライフスタイルかもしれないと疑ってみる事です。

 

ハナムラ 

 そのことに対して何ができるのかということを考え僕自身は「風景異化」や「クリエイティブシェア」のような活動をしているのですが、そうした認識を変革するために、モノの生産を入口にすることには少し疑問を持っています。

 

 モノが人を幸せにする時代は確かにあったし、今でも世界の中ではそういう状況があることも一つの事実でしょう。しかし今の日本において、モノをさらに持つことで幸せになるかといえばそうでもないのではないかと疑っています。

 

 もしそうであれば、これほど豊かにモノが溢れた社会において、自殺やストレスのような心の問題は出てこないはずなんです。モノがたくさんあって、あったかく過ごし、ご飯も食べている。それでも幸せだと感じられていない人がたくさんいるわけです。そう考えればモノが人を幸せにする時代はある意味でもう終わったと思うんです。

 

 では、何が人を幸せにするのか、ということをもっともっと考えなければなりません。それを考えるきっかけの一つとして芸術が果たせる役割があるのではないかと考えています

 

 先ほどから出ている「本質に忠誠を誓う」の「本質」の行き着く所としては、最終的に「僕たちが幸せであること」だと思います。

 

 そのことに対して、デザインも、企業も、経済も携わるべきなんです。人の欲望を煽り、モノを売ってお金を儲けるということではなく、売ったモノがその人を幸せにする、その対価としてお金をいただく、それが本当の意味でのビジネスだと思っています。

 

 少しアプローチは違うのかもしれませんが、僕のやっている活動や表現も最終的には、人を幸せにするという本質に迫るための手法であって欲しいと考えています。


橋本

 そうですね。モノを作ることではなく、そこにどう意味付けをしていくのか。マスターピースであることが重要です。

 

ハナムラ

 僕はさらにそれをみんなが享受できるものにしたいと思う。僕が考えるイノベーションの定義とは「誰もが望んでいることを、だれも考え付かない方法で、誰でもが享受できるようにすること」だとしています。

 

 それは誰でもが出来る事ではないでしょうし、だからこそ

イノベーションやマスターピースというのは偉大なのだと思います。

 

飯島

 そうですね。全ての人がマスターピースを持つ必要はありません。

マスターピースを持つ人を通して、多くの人を照らすのです。モノ社会から心の社会に。

 

 自分の中にある深い愛のエネルギーを、道具や行為を通して人々に伝えることができるかどうか、そこが問われています。

 


ー愛のエネルギーですか。ハナムラさんはどう感じられていますか?

 

 

ハナムラ

 僕自身も愛が根底に流れているテーマだということはずっと意識してきました。誰かが徹底的に愛し続けたことは、周りの人々に必ず伝わるんです。モノを作る時も同じなのだと思います。

 

 

ハナムラ 

 職人が徹底的に愛し、本質を追究したことが結集してモノとして表れた時、その愛は誰かに必ず伝わる

 

 先ほども言いましたがモノを売るということも、「相手が喜んでくれるだろうな」という愛情を持って行うからこそ、お金という対価をもらえる。そういう愛をGIVEしあうことで成り立つ社会やビジネスというようにあるべきですね。

 

 誰もがそうしたGIVEの感覚を見失っていないだろうか、愛を失ったビジネスをし過ぎていないだろうかと、疑問を持っています。社会に自分が何をGIVEできるのかが無ければ、自分も社会から何かをGIVEしてもらう資格はないと思います。

 

ーなるほど。よくわかります。物質的な豊かさは満たされた現代において、心の豊かさを感じられずに空虚感を抱いている若者も多くいます。自分の中に幸せの基準を決め、豊かに生きていかなくてはいけないな、と感じました。

 ここにいらっしゃる方々のように、そういうことを考える企業や人が少しでも増え、世の中が少しずつ良い方向に向かっていくといいな、と思います。

 

 

 

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