第8回 ハナムラチカヒロ氏 + 飯島ツトム氏 社会を変えるまなざしの力(6)

ブランディング

飯島

 ここでデザインからブランディングへ話を移していきたいと思います。

 「デザインしないデザイン」と言い始めると、デザインの仕事はなくなってしまします。生産性というところにお金が発生しなくなってしまう。そこで「これを作るのやめよう」ということに、予算を割いてもらうにはどうしたらいいのか、と考えたんですね。

 例えば、お医者さんの場合でいうと、余計な薬を処方するのをやめようっていうと、経営を維持するのが難しくなりますよね。それはデザイナーも同じような状況に置かれています。

 

 そこで私はデザインを武器に、どのように社会的課題を解決していくのか、どのように社会変革を進めていくのかを考えました。そうように活動を変えたわけです。それがブランディングということに繋がっていったということになります。

 普通はデザイナーといえば造形と思われますが……まあ、僕も造形はするんですが、それは必要に応じた二次的なアクションとしてです。

 

 むしろ、デザインを武器に、みんなが何かに気づく、何かを行動を始める、正い行いをする、そういう見えないものを手がける。それがブランディングの基本的な考え方です。ですから、モノだけに帰属しているうちは、モノを否定しまうと経済に乗らなくなる。どういう風に人の行動や状況を作り出すか、ということになると、経済として成り立つ可能性が生まれてきます。

 

 環境コミュ二ケーションという概念をつくった時もそうです。始めは環境問題と言われていて、プロブレムシンキング、つまり問題の指摘でとまってしまっていたんですね。問題指摘にとどまらず、きちんと動機づけして、行動に移すまでして初めて経済になる。それが大きなポイントです。

 

 実際、環境問題といわれていた時点は、多くの学者の方々が、公害を見つけては被害状況を調べ、原因を追求してきたんですが、少しもソリューションが起こらなかったんです。

 

 ところが、とある社会学者がその土地のおばあさんたちと囲炉裏を囲んで話したときに、ぽつりともらした「私たちが本当に欲しいのは、訴訟でもなく、社会的な制裁でもなく、ただ青い空と、綺麗な空気、自分たちのすむ土地が静かで豊かであればいい」という言葉が解決の糸口になった。

 

 そのことが加害者と被害者の二項対立を超えて、共通認識や課題の共有につながった。つまり、本質への忠誠を欠いた、問題の追及や指摘だけではだめなんです。

 

ー私達の考え方を、問題意識から、もっと前向きな、ポジティブに変化させるということですが?

 

飯島

 その通りです。ネガティブシンキングから、ポジティブシンキングにスイッチすることが重要で、外部からプロジェクトのサポートをすることは、橋本さんの重要なミッションのひとつだと、考えています。

 

ーなるほど。そこではコミュニケーションが非常に重要な気がします。

 

飯島

 その通りです。デザインをしない、といった時にその考え方をきちんと伝える。「デザインをしない」と言い切ってしまったので、「どうしてデザインをしないのか」ということを伝えなければならなくなりました。

 

 それは一言で言うと「生き物のためにならない」というのが最終的な結論です。

 

 ロングセラーのデザイン、長らく使われているもののデザインの研究をした時に出会った言葉が「副作用のない、非副作用」。副作用をもたらしているのは、人間の思考だと気付きました。どこかで思考が副作用を生み出している。ということは思考をどういう風に変えればいいのか。

 

 デザインの役割の1つは、解釈を変えるためにあるものと考えています。普通、解釈を変えるのは言葉で説得すること、などになりがちですが、ある種の正しい解釈ができる行為を生み出すものは、「道具」なんですね。

 

 例えば、包丁にも「正しくモノを切る」ということが、ユーザーに分かるようにつくる、という本質にアプローチしているものがあるんですね。それは作り手が「正しくものを切る」ということをきちんと考えて包丁を作っているものです。

 

 それが「オリジン」または「マスターピース」と呼ばれるものです。まさしく、人間の行為と正しい道を導く人が作ったものですね。そういった道具にみちびかれて人間は正しい思考・解釈ができるようになる。伝統的な文化である、日本刀や舞・神楽の中にもそういったものがありますね。

 

 日本人はある時期この「オリジン」を確立してきたと思うんです。ただ、現代では皆記憶喪失になってしまっていると感じています。けれども、記憶のどこかに、かすかに覚えがあるから、そういうものに触れると、何か懐しい気持ちになるのだと思います。

 

 今こそ、そこに、マスターピースというものが生まれてくる源流に回帰する時がきているんだろうな、と思っています。その道のりは遠いかもしれないけれど、個人というレベルではなく集団でやらなければならない、そういう時期にきているのです。

 

 

 

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